水槽の中の脳(水槽脳仮説)とは
概要
水槽の中の脳は「実際には自分の肉体が存在していない可能性」について考えられた思考実験です。
基本的に私たちは脳から信号を送って体を動かし外部からの刺激は五感を通じて脳へ送られてきます。
例えば
- 手足を動かすように脳から信号が送られればそれに対して適切な動きを体がします。
- 反対に視覚や聴覚などの感覚器官から得た情報は脳へと情報伝達が行われます。
このように脳は信号によって外部への情報を送受信しているため人体を通して情報を得ていますが、この信号の送受信が機械によって作り出された電子信号だとしてもをれを実際に脳が確認する事はできません。
つまり、脳へ伝達される情報に合理性があれば”実在しないものでも認識”してしまいます。
そのため「体験している世界は実際には存在せずに水槽に浮かんだ脳が見ている夢なのではないか」という仮説が展開されていす。
具体的には
「水槽の中には電極と繋がった脳があるだけの状態」で存在し「水槽の脳が感じる外部からの刺激は全て疑似的に作り出された情報」という仮説になります。
つまり、私たちの思い描いている世界は水槽の中でのみで完結していという考えです。
この仮説を否定する事は難しい反面、近年発展しているVR(バーチャルリアリティ:Vitual Reality)が発展すればかなり近い状況が再現ができるようになるのではないのかと考えられています。
VRが進化する事で私たちの感じる五感は全て電気信号で操作する事ができるようになり、私たちが実際に生きている環境と同じ刺激を疑似的に作り出す事ができるようになると考えられています。
※現在の技術としては機械によって作られている6本目の指を脳からの電気信号を使って意識するだけで正常に動かす事ができる段階まできています。
このような技術が発展し量産化されて運用できる状態となった場合、私たちは現実と仮想現実の境界に対する判断が朧げになっていき最終的には区別ができなくなってしまう可能性もあります。
そして、水槽の中の脳の仮説を語弊を恐れずに現代風に言い換えてしまうと「VR技術はすでに導入されており、私たちの感じてる感覚は全て仮想現実である」という事になります。
水槽の中の脳の具体的な内容
私たちの脳は”脳機能が停止しないような物質で満たされた場所”に保管され、そこでは脳細胞からの発せられる電気信号を電極によって受信し、何らかの方法で解析した結果を元にして脳へと情報を発信できる制御装置のようなものと繋がっているという仮説です。
私たちの脳は正常に電気信号を送受信しているため私たちが現実と感じている感覚は全て制御された電気信号であると考える事ができます。
この図のように、私たちが日常的に五感から受けている刺激は一度電気信号に変換されているため、その電気信号の先が五感に繋がっているのか制御装置に繋がっているのかは脳では確認する事ができません。
水槽の中の脳の様々な可能性
私たちの脳は多くの情報をやり取りしているため情報の送受信を正確に行うためには多くの情報を制御できるコンピューターが必要になります。
しかし、一般的に復旧しているパソコンの性能では処理する事が困難であるため最先端の現代技術である量子コンピューターのように膨大な情報を瞬時に処理できる高性能な機械が必要になるはず(動かすだけでも相当のエネルギー(電力など)を消費します。)ですが実際には処理する方法すら解明されていません。
更に、脳細胞が死なない特殊な成分の培養液やそれを長期間維持管理する必要(少なくとも現在まで生きてきた年月に相当する期間)もあり、こちらも大きなコスト(安全へ配慮するならば状態変化の随時観察や衛生面への配慮などは費用が大きいと思います)が発生するはずです。
いずれの技術も現代社会では再現不能な技術であるため私たちの認識している世界では実現不可能な技術を用いた装置ではあるのですが、それほどの設備を用意する事をシュミレーションしないと成り立たない仮説になっています。
その一方でそれほどの対価を払って得られるものがあるとは思えません。
もちろん”私たちの脳が浮かんでいる世界”では”私たちの想定している最先端の技術力でも昭和時代に普及した家庭用ゲーム機くらいの性能”と思えるような高度な文明なのかもしれません。
それならばたいした意味を持たずとも娯楽の一種として行われている可能性もあります。
また、私たちの感じている”現実らしいもの”が終わり”現実”へ戻ると有名な映画「マトリックス」の世界のように肉体が存在しているかもしれませんし、その世界には楽園(もしくは地獄)のような世界が広がっているのかもしれません。
いずれにしても不確定な要素が多すぎて真偽の判断がつかないというのが現状となっています。
まとめ
水槽の中の脳を完全否定する事はできませんが肯定する要素は多くあり下記のような論理には脳が水槽にあっても矛盾点がない(むしろ都合が良い)と考えられています。
例えば
- フェルミのパラドックス
「地球外生命を確認できていないのは不自然」とする考えで、生命誕生の確率が低すぎるという疑問があります。 - 速度の有限性の謎(光度普遍の原理)
物体が動く速度に上限がある事から「それ以上の事象を起こせないのはシステム的な問題ではないのか?」という疑問です。 - 世界5分前仮説
宇宙の起源の謎として、宇宙はほんの少し前に創生され、過去があるように感じるのはそのような記憶や歴史が用意された状態から始まった可能性があるという考えです。
このような考えは哲学者のプラトンの時代(紀元前400年前後)からすでに考えられていましたが1982年にヒラリー・パトナム(Hilary Putnam)によって定式化されました。
そして、現在も水槽の中の脳についての議論は続いており反論もありますが未だに証明されていませんし今後も証明される事はないと思います。
世界をシミレーションできるシステムが優秀であれば私たちの世界が仮想現実であっても現実との差を私たちが感じ取る事はできないため答えを導く事はできないでしょう。
この思考実験は”実際に見聞きした情報”の真偽を疑うものですが現代社会はインターネットをはじめとしたIT分野の技術発展が目覚ましいため”情報の真偽”については慎重にならざるをえません。
過去には動画配信で流れたカーレースの映像を目撃した視聴者が実際に車で走っていると誤解して「速度超過の危険運転」を警察に通報した事で動画配信者の自宅へと警官が出動した騒動も発生しています。
備考
水槽の中の脳は「水槽脳仮説」「水槽の中の脳」「培養槽に浮かぶ脳」「桶の中の脳」など様々な呼ばれ方がされているため多くの名称があります。