反報性の原理(返報性の法則)とは
概要
返報性の原理(へんぽうせいのげんり)は他人からなにか(物だけではなく言動なども含みます)を受け取ると「なにかお返しをしなければいけない」という感情を抱くような心理です。
特に日本人は「恩を受けたら返しなさい」「借りは返すもの」などの言葉を幼少期から親などの周囲の大人から教育される傾向が強いため好意を受けるとそれ以上の恩が返ってくるパターンも珍しくありません。
このような心理効果の影響か「富裕層」と言われるような人にはギバー(他者に与える存在)が多い傾向があります。
しかし、他人に与えすぎると相手は「返さなくてはいけない」という気持ちが重荷になってしまう事があるので過度な施しは要注意です。
また、テイカー(他者から奪う存在)のように「施しを受けるのが当然」「他人は搾取するためにいる」という思想から自分勝手な行いも全て許されると勘違いしている人もいるため誰でも構わず一概に与えれば恩返しが期待できるというわけではありません。
※小さな貸しでもここぞとばかりに大きな見返りを求めるタイプも多いです。
返報性の原理はビジネスでも活用されているので商業的な手法はマーケティングの場で広く利用されています。
ビジネスシーンの具体例
返報性の原理は様々な場面で見る機会が多いと思いますし多くの人は実際に恩を返してもらった経験があると思います。
しかし、ビジネスの手法でも取り入れられている心理であるため無意識のうちに誘導されてしまう可能性もあるため注意が必要です。
具体的には
試食のように宣伝を兼ねて無料で商品を提供しているお店は多いと思います。
このような行為の前提としては「商品を無料で提供して気に入れば購入を促す」というものですが「食べたら購入しないと申し訳ない」と思う人が大多数だと思います。
特にスーパーマーケットなどで「トレーに並べて置かれている試食」よりも「店員が調理をしながら手渡しでサンプルを提供している試食」の方が購入を催促されていると感じる人は多いと思います。
このような状況の場合は「ちょっと気になるけど食べたら買わないといけないかも・・・」と警戒して試食をしない人も多いと思います。
本来ならば試食をして「美味しい」「コスパが良い」などの商品評価から購入を検討するはずが「店員の丁寧な接客」のお返しとして「商品の購入」というお礼をしてしまうような状況です。
このようにお試し商品のようなサンプルを配布する方法はビジネスの分野ではとても重要な戦略として活用されています。
※昔からある織り込みチラシや電車に張り出されている広告、テレビやラジオCMなどで流れている商品でも「初回無料」「気に入らなければ全額返金OK」など様々な方法を使って販促(販売促進)活動を行っています。近年はyoutube(ユーチューブ)や無料のアプリでも宣伝が活発に行われています。
このようなビジネスの手法は時には悪用されて催眠商法(高齢者や主婦などを主なターゲットとして無料のプレゼントとして安価な食料品や日用雑貨をはじめとする生活必需品の商品提供をきっかけに様々な商品を販売していき過度に購買意欲を高めたうえで健康関連の食品や機器などの商品を”貴重なのに安価”で販売していると錯覚させて売り付ける商法)などでも利用されています。
※詐欺師や組織犯罪などで悪用される事もあります。
対人関係での具体例
返報性の原理は人に対して起こる心理効果であるため恋愛のような場面でも効果を発揮します。
例えば
あなたの事を好きな人がいる場合、その人はあなたの事を気にして気を引くために様々な方法を考えると思いますが一方的に尽くしてくれる人をあなたはずっと無下にできるでしょうか?
※周囲の目もあるため一方的な人間関係を継続するには様々なデメリットが生じる可能性に不安を感じる人も多いのではないでしょうか。
具体的には
誕生日に頂きものをしたら今度はその人の誕生日に「お礼をしないといけない」と考える人が多いと思います。
この発想がない人は「施しを受けるのは当然である」というサイコパス(精神病質者)的な発想が強いテイカーである可能性が高いため、関係を一度見直して考え直した方が良いと思います。
特に近年話題になる事も多い婚活に苦労するタイプの人の常識は男女を逆にすると不自然としか考えられない事も多く、TwitterなどのSNS(ソーシャルネットワークワービス)で炎上する事も珍しくはありません。
しかし、残念ながらシンデレラ症候群(シンデレラシンドローム/シンデレラコンプレックス)のように男性に高い理想を求める一方で自らはその理想に釣り合うだけの魅力が無い人はとても多いですし、逆に女性に高い理想を持っているのにそれに伴わない言動の男性も多いのが現状です。
また、ホストやキャバ嬢などの接客業をする人の中には集金のために過度な金銭的負担を強いる事もあるようで、恋愛経験の乏しい人をターゲットにしてお金が無くなったら捨ててしまうような人が恨みを買って傷害事件の被害者になるケースも珍しくはありません。
※借金をして貢ぐ人も多く、通常の昼職の労働だけでは不足する分を夜職で補ったり、掛け持ちでは追い付かなくなり風落ちしてしまう人も多いようです。
中には殺傷事件のようになるケースもありメディアを賑わせる事もありますが「恋は盲目」と言われますし加害者も貢いでいる間は一種のマインドコントロールを受けている状態であると言われる事もある事から、洗脳が解けると狂気に変わってしまうのかもしれません。
このように「相手の立場になって考える」という発想が乏しいと仮に関係が続いても、搾取され続ける事が好きな人でなければいずれ我慢の限界が来て思わぬトラブルに発展する可能性は非常に高いです。
返報性の原理の応用
返報性の原理の基本はギブアンドテイクやwin-winのように、お互いに良好な関係を保つために必要な方法だとも言えます。
基本的には物や行動で返す事が多いですが、この心理を上手に使うと他者への理解を深める事に役に立ちます。
例えば
気になる異性がいる場合、その人は「どのように好意を伝える事を好むのか」を確認(直接聞いても良いですし、間接的に聞いても良いですが、情報を収集するとします)します。
ここで「徐々に距離を詰めて~」と回答するタイプの人の場合は、その人も徐々に親密になる事を望んでいる可能性が高いです。
反対に「すぐに告白してしまう」だった場合は、好意をストレートに伝えて欲しい可能性が高いです。
このように、他者を知るための知識として頭の片隅に入れておきたい手法でもあります。
また、ジョハリの窓でも知られるように、こちらの自己開示が進めば相手の自己開示も積極的になるため、円滑なコミュニケーションが取りやすいと考えられています。
返報性の原理の注意点
この返報性の原理は様々なシーンで多く見受ける事ができますが、注意点として好意だけでなく悪意も返ってくるため注意が必要です。
日本では「人を呪わば穴二つ」といわれるように「人に害を及ぼすような事をすると自分も同じ仕打ちに合う事を覚悟しなければいけない」といいう意味のことわざがあります。
そのため、悪意を振りまいている人は周囲に向けた悪意が返ってくる事が多いですし、振りまいた悪意以上の悪意が向けられてしまう事も珍しくありません。
また、考え違いをしている人の場合「恩を売ったのだから返すのが当然」と相手に強要する悪質な人までいますがこれは犯罪です。
返報性の原理は強要されるものではなくあくまでも自主的に行動に移るものですが、テイカーは相手を搾取するためにこのような不法行為をする傾向が強いです。
※本質的に好意を受けても返すという発想はない人たちです。
しかし、意外かもしれませんがテイカーは成金に多いです。
これは搾取するという選択は短期的な利益を得やすいためですが、人から奪い取るような行為は多くの敵意を向けられるようになるので得た富は長く続かずに振りまいた悪意が自らに向けられる事になる傾向が強いので強引な方法で得たお金はあっという間に無くなってしまう事が多いです。
2024年から一万円札に印刷され「近代日本経済の父」や「日本資本主義の父」とも言われる「渋沢栄一」が大正5年(1916年)に著した『論語と算盤』には「富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。」と述べられています。
※渋沢栄一は500社にのぼる企業の設立・育成に関わり、福祉や教育などの社会事業にも熱心に取り組み600余りの社会事業に力を注ぎました。
【渋沢栄一が関係した主な企業】
アサヒビール(株)、王子製紙(株)、川崎重工(株)、(株)埼玉りそな銀行、サッポロビール(株)、清水建設(株)、太平洋セメント(株)、秩父鉄道(株)、(株)帝国ホテル、東京海上日動火災保険(株)、東京ガス(株)、東宝(株)、日本煉瓦製造(株)、(株)日本経済新聞社、日本郵船(株)、東日本旅客鉄道(株)、(株)みずほ銀行
※現存する企業・団体等は原則として現在の名称で表記しています。
返報性の原理の問題点
前述した通り、日本人は「恩を受けたら返しなさい」と教育された人が多いですが「目には目を、歯には歯を」と教育された人も多いと思います。
この影響かはわかりませんが日本人にはマッチャー(お互いの損得は五分五分であると考える人)がもっとも多い(約半数)といわれています。
そのため、日本では「他人は自分を映す鏡」ともいわれ基本的には何かをすると自分に返ってきやすい傾向があります。
しかし、受けた恩を返すだけではゼロサム・ゲーム(ゼロ和) なため総量が増える事はありません。
これをプラスに変えるには、周囲とwin-winになるような関係になる事が重要です。
※自分を犠牲にして与えている状況はwin-winとは言えません。
また、自己犠牲による与え方は相手に「なにか返さなくてはいけない」という心理効果が強く働きやすいため罪悪感を与えてしまう可能性が高いです。
最悪の場合は好意で尽くしていたのに会う事を避けるようになってしまうかもしれません。
代表的な例ではバレンタインのチョコレートなどで本命チョコをプレゼントする際にはそれまでの関係性を見誤ると疎遠になってしまう事もあります。
※もちろん成功してホワイトデーに素敵なお返しを貰える可能性もあります。
そのため、良好な関係を継続するにはお互いの距離感のバランスが大切です。
まとめ
返報性の原理は嫌悪感がない相手に対して起こりやすい心理です。
基本的にはマッチャーやギバーは返報性の原理の影響を受けやすいためお礼を返してくれる傾向が強いです。
そのためお互いになにも先入観を持たないままお礼をし合う関係w継続しやすいため好感度を上げるのが比較的容易で親密度を上げて仲良くなりやすい傾向があります。
しかし、相手が嫌悪感を抱いている場合は接触自体が嫌悪を増大させてしまう(ブーメラン効果)原因となるため相手との関係を見極める事が重要です。
つまり「嫌われている人に好かれようとする」事は難しいですし「全ての人と仲良くできる人はいない」ためある程度は関係に見切りをつける事は重要です。
一説では「どんなに人から好かれるように努力しても2割の人からは嫌われてしまう」「自分の思うままに生きていても2割の人からは好かれる」「自分の努力で好意を得られるのは6割」という話もあります。
そこで「2割も好かれていない」「2割以上の人に嫌われている」と思う人は環境が適していないだけで違う環境に身を置くようにすると周囲からの好感度に大きな違いがでる可能性もあります。
また、こちらが「良かれ」と思って相手になにかをしてあげたとしてもそれを相手が快く思っていない事も多いです。
具体的な例としては
上司や先輩が部下や後輩にご飯をごちそうする場合、上司や先輩と食事をする事は部下や後輩にとってメリットのある事でしょうか?
尊敬されている上司の話は別ですが、多くの上司や先輩が尊敬できるほど有能である事は滅多にありません。
基本的に下の立場の人は仕事の延長や社交辞令として相手をしているうえに「休憩時間時間まで潰されて相手をしなければいけないのはサービス残業だ」と捉える人も増えてきています。
特に嫌われるのは「時間を奪われる上に参加費まで取られる」ような状況の場合は解説するまでもなく不快感を与えています。
具体例としては
上司からお昼ご飯を誘われるパターンなどが該当します。
嫌いな上司からのお誘いの上に食べたいものがない飲食店へ行きお支払いはそれぞれの場合は本音では確実に嫌われていると思います。
しかし、このような判断が難しい点は相手から「好かれている」「嫌われている」というのは上の立場にいると判断が難しい事です。
当然フレンドリーな関係を築けている場合は相手も不快に思う事はないと思いますが、例え嫌いな上司でも「上司」という立場上、部下は嫌いな上司でもあからさまに不快感を表にはだしません。
そのため、相手の事をしっかりと考えられているのかはとても重要な要素になっています。