保有効果(授かり効果)とは
概要
保有効果は自分が所有しているものは価値が高いと錯覚する心理です。
特に保有している期間が長い場合は高い価値を感じて「手放したくない」という愛着などの気持ちが強くなるため、主観的に判断した価値と客観的に判断した価値との差が大きくなります。
- 「お気に入りで長年愛用している物はボロボロになっても大切した」
- 「あまり使わない不要な物でも捨てるのに躊躇する」
このような気持ちになるのは保有効果が働いています。
※保有効果の作用には大小があるため、影響を強く受ける人やあまり受けない人がいます。
また、保有効果は他の心理効果も一緒に作用しやすい効果でもあります。
例えば下記の様な複数の心理効果が作用すると保有効果の影響が強くなります。
※精神的な影響が強いため、全く当てはまらなかったり強く共感できる作用があると思います。
- 一貫性の法則(一貫性の原理)
一度保有したら最後まで(使えなくなるまで)持っていたいと感じます。 - 現状維持バイアス
保有しているという現状を維持したいと感じます。 - 損失回避性(損失回避の法則)
保有しているものを失う事に大きな抵抗を感じます。 - 単純接触効果(ザイアンス効果)
接触回数(使用頻度など)が増えることで好感を感じます。 - 埋没費用(コンコルド効果/サンクコスト効果)
損失を確定させる事(無駄なのに捨てられないなど)に抵抗を感じます。
保有効果は基本的には感情・環境・タイミングなどの影響も強く作用しますが論理的思考(ロジカルシンキング)が得意な人はこの影響が少ないです。
保有効果の具体例
基本的に保有効果は自分が所持している物の価値は高いと感じる心理なので、世間的な相場とは大きな差が発生してしまう事が多いです。
具体的な例として車の市場価値をサンプルとして考えてみます。
車を新車で購入(300万円)購入した場合
- 基本的に車は新車の値段が最も高いです。
- 買った瞬間から中古車となります。
- 経年劣化によって価値は下がっていきます。
つまり、基本的に車の価値が上がる事はありません。
そして、多くの人は納車した段階で一番感情が高まりますが、新車から中古車に変わる時が最も大きく市場価値が下落します。
※納車したばかりの車を新車価格よりも数十万も安い値段で売却しようと思う人は稀だと思います。
また、車を何年も乗っていると次第に愛着が湧いてきますが、市場価値は日々下落していきます。
仮に10年経過して市場平均取引額が18万円になったとします。
買取査定にだすと相場よりも高い20万円だったとしたら約1割も高い買取査定です。
しかし、280万円の下落ですので年間平均28万円価値が下がっている計算になります。
※新車を現金一括払いで購入する人は少ないためローンの金利分の費用や、維持費管理費などにも費用が掛かっているため、実際に支払った価格と売買価格の差は更に開いている事が多いです。
そのため、新車を始めて売買するような知識や経験が少ない人はこの買取価格は安いと感じると思います。
しかし、この買取価格は実際の相場価格よりも高いので保有効果による心理的な差が発生しています。
保有効果の影響を受けないもの
保有効果は誰にでも起こる可能性がある心理です。
特に取引数が少ないものは明確な指標がないため、保有効果の影響が顕著に表れる傾向があります。
そのため、保有効果を解消するためには自分の視点だけではなく客観的な視点を考える事が重要です。
単純に所有しているだけでも何かしらの対価を払っている事が多いのですが、他者はその対価についての価値を感じる事は少ないため価値を安く考える傾向があります。
また、基本的に所有しているものは価値が減少していくという事を忘れてはいけません。
特に大量生産品の価値は大きく下落しやすいです。
先ほどの車のように、大量生産されている車の保守・点検をまめに行い常に万全の状態で維持していても価格は大きく下落してしまいます。
しかし、新車で購入した車が限定生産で大人気のモデルの場合、むしろ価格は値上がりしていきます。
つまり、需給バランスによって価格は定まっているため、世間が必要としているものならば価格は上昇していきます。
このように所有していて価値が上がっていくものは資産として考える事ができますが、保有していて価値が上がるものはとても稀なため見極める事はとても難しいです。
まとめ
保有効果は自分の所有している物に対して高い価値を感じる心理です。
基本的に、強く欲しいと思っているものを手にした時にその価値以上の喜びがあるように、手放す時にはその価値以上の喪失感を与える傾向があります。
※強く欲して手にしたものには、俗にいう「思い出補正」とも呼ばれる付加価値があるため特に高い価値を感じやすい傾向があります。
特に長く愛用しているものであればあるほど感情的に手放すハードルはあがっていくため失った時の喪失感は大きいです。
そして、この現象は希少なもの(市場に出回る流通量が少ない)ほど強く影響される傾向があります。
- 絵画(作者が亡くなっているため作品は増えません)
- サルバトール・ムンディ/レオナルド・ダ・ヴィンチ:約508億円
- サルバトール・ムンディ/レオナルド・ダ・ヴィンチ:約508億円
- 宝石(滅多に採掘されないグレードのものです)
- CTFピンク・スター:約79億円
- CTFピンク・スター:約79億円
- 高級車
- 1962年式フェラーリ 250GTO:約54億円
- 1962年式フェラーリ 250GTO:約54億円
- カード(MLBのトレーディングカード)
- 1952年のトップス社製ミッキー・マントル:約17億5000万円
- 1952年のトップス社製ミッキー・マントル:約17億5000万円
- お酒(ウォッカ)
- Billionaire Vodka:約4億3000万円
- ※3000個のダイヤモンドが装飾されたスワロフスキー製のボトルはそれだけでも価値が高いです。
- ゲームソフト
- スーパーマリオ64(海外版):約1億6,500万円
このように市場での流通が少ないものは高値で取引され、一度人の手に移ると持ち主が死ぬまで二度と市場に出回らない可能性も高いです。
このように、本当に欲しい物にはいくらでもお金を出す人がいますが、反対にいくらお金を出されても手放さない人も多いです。
しかし、その愛着は個人的な感情であるため必ずしも他者に伝わるものではありません。
※「祖父が大切にしていたものを孫が勝手に売りに出してしまう」という話も良く耳にします。
そして、仮に手放す事になってしまっても資産的価値があるものは、基本的に需要に対して供給が少ないため売却する際には買値よりも高く売りやすい傾向があります。
そのため、実際の価値と感情による価値の双方が上昇するため、手放す際の喪失感を軽減する事ができます。
備考
保有効果は経済学者であるリチャード・H・セイラーが1970年代に提唱しました