無限の猿定理について
概要
無限の猿定理は「難解なものでも十分な時間をかければできる」という思考実験を元にした考えです。
無限の猿定理の基本的な概念として「猿がタイプライターをランダムに打ち続ける事ができればウィリアム・シェイクスピアの作品を全て打ち出す事ができる」という考えが元になっています。
しかし、この”十分な時間”とは猿の一生では足りない可能性が高いほど長い時間の可能性が高いため1匹の猿が打ち出せる可能性はほぼゼロですが運が良ければ1回目で打ち出せる可能性もあるためとてつもなく低い確率ではあるものの0%にはなりません。
つまり、語弊を恐れずかみ砕いた表現をすると俗に言う「時間をかければ馬鹿でもできる」や「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」という言葉を合わせたような内容で「時間を確保して試行回数を増やせばいずれは正解にたどり着く」という概念です。
考察
「タイプライターのキーを押す」という単純な作業だけならば猿でもできます。
順序通り複数回キーを押す事ができれば文字を刻印していき特定の文字列を印字した用紙を作り出せます。
猿には人のように文章を考えながら打込む事はできませんが総当たりして打ち込む文字数を増やす事で文字や文章を作成する事ができます。
そのため、猿が考えなしにキーを打ち込んでも試行回数が増えればまぐれで文字や文章が構築されていきます。
しかし、単語や文字列が長くなればなるほど確率は低くなっていきます。
タイプライターは製品によって仕様が異なりますがアルファベット26文字と数字・記号などを合わせると概ね50前後のキーがあります。
例えば、
50個あるキーボードをランダムに押して「monkey」の6文字を入力する確率は、0.000000006%(1/(50^6)=1/15,625,000,000=0.00000000006)と非常に低い確率となります。
しかし、低確率でも試行回数を増やす事で正解を入力する事ができます。
また、その過程で6文字の「banana」や5文字の「apple」など、6文字以下の単語の多くは入力されます。
つまり、ランダムに入力を行っても時間をかける事でどんなに複雑な文章でも作成することができるという事になります。
そのため、理論上は猿がタイプライターを入力し続ければシェイクスピアの作品も入力できる事になります。
問題点
無限の猿の定理では「十分な時間」をかける事でシェイクスピアの文章を入力する事ができるというものです。
しかし、シェイクスピアの文章を作成するだけの「十分な時間」というのはとても長く、現実的な時間だとは考えられません。
先ほどの「monkey」の6文字を入力する際に、1秒に1文字のペースで入力をしてすべての文字列を網羅する場合、約495年(15,625,000,000秒≒4,340,278時間≒180,845日≒495年)もかかってしまいます。
猿の寿命よりも長くなるため現実的な方法とは考えられません。
(※この計算は机上の空論であり、実際に猿が入力を行う場合は入力に偏りが発生し完全なランダムにはならず「s」の文字が多くなったとする実験結果もあるため、実際の確率とは乖離する可能性が高いです。)
つまり、シェイクスピアほどの大作が私たちの生存している間にランダムでできる可能性はとても低い確率となってしまいます。
そのため、1匹の猿に入力させるのではなく、2匹の猿に同時に入力させることで期間を短くするという考えもできます。
つまり、入力する猿の数を増やす事で期間を短くする事ができます。
そのため、猿とタイプライターを無限に用意できれば6秒で「monkey」の入力が終わる事になります。
※1秒に1文字を入力したらいずれかの猿はタイプライターに「monkey」という6文字の入力ができているはずです。
しかし、無限に猿を用意する事はできないため、実際には「monkey」の6文字を入力するためには膨大な時間がかかります。
つまり、シェイクスピアの全文を1文字の間違いもなく入力できる可能性はほぼ確実であるものの、その事象を成立させるためには人間の一生ではあまりにも長い時間を要します。
このように、理論上は有限の時間でどのような文章でも作成する事ができますが、その事象が成り立つために要する時間はとても長いため実際には有限であってもそれは無限とほぼ同意となってしまいます。
まとめ
無限の猿定理で重要な点は「ほぼ確実にできる」のにそれが「ほぼ不可能」な点です。
これは前提条件である「十分な時間をかければ」という条件にあります。
実際にランダムな文字列を生成する猿を仮想的な空間でシュミレーションした場合、現在シェイクスピアの冒頭を入力する事に成功した最高記憶は19文字となっています。
しかし、このシュミレーションによると猿一匹で入力した換算をしてしまうと約4溝2162積5000垓年もの歳月がかかってしまいます。
日常生活では普段目にすることがない桁数となってしまうためその長さも感覚的にわかりにくいものとなるほどです。
このように「限りなくゼロに近い確率ではあるもののゼロではなく、また有限ではあるものの膨大な数となる」ため理論上の猿はどのような文章でも打つことができてしまいますがそこに要する時間は想像を超えるものとなります。
つまり、人と猿の大きな違いは効率です。
私たちは学習する事で目的の文字列を猿よりも早く入力する事ができるようになるため猿のように「人海戦術で時間をかければできる」という人を「優秀な人」と表現する人は少ないです。
基本的にはIQ(アイキュー)が高く論理的思考(ロジカルシンキング)が得意な人は目的に向かって合理的な判断ができるため多くの状況で成果を残しやすい傾向があるため”優秀である”と評価されやすい傾向があります。
人にとっては時間をなるべくかけずに効率よくできるのが有能である条件なのかもしれません。