実語教(實語教) | あむぶろ 学校では教えてくれない大切なこと

雑学

実語教(實語教)

投稿日:2022年10月22日 更新日:

実語教(實語教)とは

概要

実語教じつごきょうは平安時代から鎌倉時代に普及した書物で、江戸時代には寺子屋で教材として普及していました。

1万円札でお馴染みの福沢諭吉が書いた「学問のすゝめ」でも引用されているほど当時は有名な書物でした。
※「学問のすすめ」の冒頭「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は耳にした事がある人も多いと思いますが、これには続きがあり「貧富の差はどこから来るのでしょう?それは学んだ人と学ばなかった人の差です」という内容が後に続きます。

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。されば天より人を生ずるには、万人は万人みな同じ位にして、生まれながら貴賤きせん上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物を資とり、もって衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずしておのおの安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥どろとの相違あるに似たるはなんぞや。その次第はなはだ明らかなり。『実語教じつごきょう』に、「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」とあり。されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり。

-以下略-

学問のススメ

「実語教」は昔は広く一般的に知られていたようですが、現在は「実語教」という単語を耳にしたことがある人は少ないと思います。

しかし、その一部を耳にした事がある人は多いと思います。

例えば

  • 山高きがゆえたっとからず
  • みがかざれば光無し
  • 人学ばざれば智なし
  • 富むといへども貧しきを忘るることなかれ。
  • たっとしといへどいやしきを忘るることなかれ。

このようなことわざを目にする機会もあると思います。

個人的にはお土産物が並んでいるお店の一角や、和室で目にする機会の多い掛け軸や額に入れられた色紙などで目にする事があります。

古くからある言葉なので知っている人は多いと思いますが、その出典についてまで知っている人は意外と少ないかもしれません。

実語教現代語訳と概要

実語教は発行されたのがとても古いため現代の価値観とは異なる部分もありますし、仏教的な思想がある(死後の事についてもふれています)内容にもなっています。
※イメージのつきやすさを優先しているため私なりにかみ砕いて解説しているため、実際のニュアンスと多少異なる事があります。
※全文だけで理解できる現代人は少ないと思いますので、最初から簡単な解説をつけて記載してあります。(下の方に本文と現代語訳があります。)
※古いため若干言い回しが異なる資料も多いです。

以下、実語教現代語訳と概要


  • 山高きがゆえたっとからず。樹有るをもったっとしとす。
    • 山は高い事が大切なのではなく、山には樹が茂っている事が大切です。
  • えたるがゆえたっとからず。智有るをもったっとしとす。
    • 人は裕福である事が大切なのではなく、知恵がある事が大切です。
  • 富はこれ一生のたから。身滅すればすなわち共に滅す。
    • 一生分の財産があれば生きている間は裕福ですが、死後の世界へ持っていく事はできません。
  • 智は是万代こればんだいたから。命終われば即ちしたがって行く。
    • 知恵はいくら使ってもなくならない後世にまで残せる宝で、死んでからも手放す必要はありません。
  • 玉磨かざれば光無し。光無きを石瓦いしかわらとす。
    • 玉は磨かなければ光りませんし、光らなければ価値はありません。
  • 人学ばざれば智無し。智無きを愚人ぐにんとす。
    • 学ばなければ知恵はつきませんし、知恵がなければ愚か者です。
      ※自らが愚かであると気づかずに賢いと思っている人が真の愚か者です。
  • 倉の内のたからは朽つること有り。身の内のたからは朽ちること無し。
    • 倉庫の中にある宝は朽ち果ててしまう事がありますが、身に着けた才能は朽ちる事がありません。
  • 千両のこがねを積むといへども。一日のがくかず。
    • たくさんのお金よりも、1日学んだ方が価値があります。
  • 兄弟常に合わず。慈悲を兄弟とす。
    • 兄弟でも常に志は同じではないのだから、すべての人に慈悲をもって接すればみんな兄弟と同様です。
  • 財物ざいもつながぞんせず。才智を財物とす。
    • 資産がたくさんあるだけではいつかなくなってしまいますが、才能や知恵はいつまでもなくならない宝です。
  • 四大しだい日々に衰え、心神夜々しんしんややに暗し。
    • 体は日々衰えていき、それに伴って心も暗くなっていきます。
  • いとけなき時勤学きんがくせざれば、老て後恨み悔ゆといへども、なおしょ益有ること無し。
    • 幼い時に学ばなければ、老いてから後悔しても、いい事はありません。
  • 故に書を読んでむことなかれ。
    • そのため、若い時から勉強して後悔しないようにしましょう。
  • 学文怠る時なかれ。
    • 学問は常に怠らないようにしましょう。
  • 眠りを除きて通夜にじゅせよ。飢えを忍びて終日習え。
    • 夜中に眠たくなっても寝ず、お腹が減っても昼夜学びましょう。
  • 師にうといへども学せざれば、いたづら市人いちびとに向かうが如し。
    • 師匠にあっても学ばないなら、師匠に会ったのにもったいないですよ。
  • 習い読むといへどふくせざれば、只隣のたからを数えるが如し。
    • 勉強をしても身につけなければ、隣の家の資産を数えているのと同じで意味がありません。
  • 君子は智者を愛す。小人しょうじん福人ふくじんを愛す。
    • 善人は知恵がある人が好きです。悪人はお金がある人が好きです。
  • 富貴ふうきの家に入るといへども、たから無き人の為は、なおしもの下の花の如し。
    • 富も地位もある家庭に生まれても、知恵がない人は、霜の下にある花のように気が付かれないでしょう。
  • 貧賤ひんせんもんを出ずるといへども、智有る人の為には、あたかも泥中でいちゅうはちすの如し。
    • 貧困家庭に生まれても、知恵がある人は、蓮の花のように目をひくでしょう。
  • 父母は天地の如し。師君は日月じつげつの如し。 
    • 両親はなくてはいけない存在で、師匠は教え導いてくれる人です。
  • 親族たとえあしの如し。夫妻はなおかわらの如く。
    • 親族はたくさんいますが、夫婦は仲睦まじい事が良いです。
      • 葦:イネ科の多年草で地中をはって大群落をつくります。
  • 父母には朝夕に孝せよ。
    • 両親にしっかりと親孝行しましょう。
  • 師君には昼夜に仕えよ。
    • 師匠にしっかりと使えましょう。
  • 友に交わってあらそう事なかれ。
    • 友人と争わずに仲良くしましょう。
  • 己より兄には礼敬を尽くせ。己より弟には愛戯を致せ。
    • 年長者には礼儀を、年少者は可愛がってあげましょう。
  • 人として智無きは、木石ぼくせきに異ならず。
    • 人としての常識がなければ、人としての感情はもたないでしょう。
      • 木石:感情がない・非常なものの例え
  • 人として孝無きは、畜生に異ならず。
    • 人を敬う気持ちがなければ、人にはあたいしないでしょう。
  • 三学の友に交わらずんば、何ぞ七覚の林に遊ばん。
    • 基本的な事ができなければ、応用を身に着ける事はできないでしょう。
      • 三学は仏教の基本的な修行
        戒学かいがく:心身の悪いおこないを抑制すること
        定学じようがく:精神を統一すること
        慧学えがく:理性をもって道理を悟こと
      • 七覚は仏教で悟り開くために必要な七つのこと
        択法覚支ちゃくほうかくし:真偽を見極めること
        精進覚支しょうじんかくし:努力すること
        喜覚支きかくし:喜びをもつこと
        軽安覚支きょうあんかくし:快適さを感じること
        捨覚支しゃしかく:執着しないこと
        定覚支じょうしかく:精神を乱さないこと
        念覚支ねんしかく:惑わされないこと
  • 四等の船に乗らずんば、誰か八苦の海を渡さん。
    • 大切な事がわからないと、苦しみを乗り越えられません。
      • 四等(四原理、四無量心):徳の種類
        :他者を慈しむこと
        :他者を哀れむこと
        :他者と共に喜ぶこと
        しゃ:平等で冷静なこと
      • 八苦:八種類の苦しみ
        ・生苦:生まれる苦しみ
        ・老苦:老化する苦しみ
        ・病苦:病気にかかる苦しみ
        ・死苦:死ぬ苦しみ
        愛別離苦あいべつりく:親愛する人と離れる苦しみ
        怨憎会苦おうぞうえく:嫌いな人と会わないといけない苦しみ
        求不得苦ぐふとくく:欲求が満たされない苦しみ
        五陰盛苦ごおんじょうく:心身の苦痛や苦悩
        ※四苦は「生・老・病・死」です。
  • 八正の道はひろしといへども、十悪じゅうあくの人は往かず。
    • 正しい行いはたくさんあるけれど、悪い行いしている人が改める事は難しいです。
      • 八正道はっしょどう:八つの正しい教え
        正見しょうけん:正しいものの見方をする事
        正思しょうし:正しく意欲をもつ事
        正語しょうご:正しい言葉遣いをする事
        正業しょうごう:正しい行いをする事
        正命しょうみょう:正しい生活をする事
        正精進しょうしょうじん:正しい努力をする事
        正念しょうねん:正しい気づかいをする事
        正定しょうじょう:正しく集中する事
      • 十悪:10種類の悪事:身三口四意三しさんくしいさん
        身業の三種・身三
        殺生せっしょう:生命を断つこと
        偸盗ちゅうとう:財物を盗み取ること
        邪婬じゃいん:婚約していない人との性交渉を行うこと
        口業の四種・口四
        妄語もうご:言葉によって他人をたぶらかすこと
        両舌りょうぜつ:仲違いさせる発言をすること
        悪口あっく:他人に罵詈雑言をあびせること
        綺語きご:真実に反して飾り立てること
        意業の三種・意三
        貪欲とんよく:満足することをしらないこと
        瞋恚しんに:自分の心に逆らうものを憎み怒ること
        邪見じゃけん:道理を無視する誤った捉え方をすること
  • 無為の都に楽しむといへども、報逸ほういつの輩は遊ばず。 
    • 心の底から楽しめる場所があるけれど、身勝手な人はそこには行けません。
      ※放逸:勝手気ままに振舞っていて常識・道徳を無視していること
  • 老いたるを敬うは父母の如し、幼きを愛するは子弟の如し。
    • 年長者は両親のように敬い、年少者は弟妹のように愛しましょう。
  • 我他人を敬へば、他人また我を敬う。
    • 他者を敬えば、他者からも敬われます。
  • 己人の親を敬えば、人また己が親を敬う。
    • 他者の親を敬えば、他者は自分の親を敬うでしょう。
  • 己が身を達っせんと欲せば、先ず他人の身を達っせしめよ。
    • 自分の身を善くしたいと思うならば、まずは他人の身を善くしましょう。
  • 他人のうれいを見ては、即ち自ら共にうれうべし。
    • 悲しんでいる人がいたら、同情してあげましょう。
  • 他人のよろこびを聞いては、即ち自ら共に悦ぶべし。
    • 喜んでいる人がいたら、一緒に喜びましょう。
  • 善を見ては速やかに行け、悪を見てはたちまち避れ。
    • 善行を見たら直ちに真似し、悪行を見たら自分の行いを見つめなおしましょう。
  • 悪を好む者は禍を招く。たとえば響きの音に応ずるが如し。
    • 悪い事をしている人は不幸になってしまいます。それは音が響くようにです。
      ※響く:広い範囲に評判が立つ・よくない影響が及ぶ。
  • 善を修する者は福をこうむる。あたかも身に影のしたがうが如し。
    • 善行をする人には福がきます。それは影のようについてきます。
  • 富むといへども貧しきを忘るることなかれ。或いは始めに富み終わりに貧しいとも。
    • 裕福になっても貧しい時の気持ちを忘れはいけません。裕福であったのに貧しくなってしまう事もあります。
  • たっとしといへどいやしきを忘るることなかれ。或いは先にたっとく終わりにいやしくとも。
    • 高貴な立場でも賤しき立場を忘れてはいけません。高貴な身分であっても賤しい身分になってしまう事もあります。
      ※賤しい:身分が低い・粗末・みすぼらしい。
  • それ習い難く忘れ易しは、音声の浮才。
    • 習うのが難しく忘れやすいのは日常生活に役立たない能力です。

  • また学び易く忘れ難しは、書筆の博げい
    • 学やすくて忘れにくいのは、読み書きのような豊かな教養のための基礎です。
  • 但し食有れば法有り、また身あれば命有り。
    • ただし、食べ物が体をつくっていますし、体があるから命もあります。
  • なお農業を忘れざれば、必ず学文廃することなかれ。
    • つまり、農業を忘れてはいけませんし、学ぶことを忘れてはいけません。
  • 故に末代の学者、先ず此の書をあんずべし。
    • そのため後世の人々は、まずこの書を読んで考えてください。
  • 是学文の始まり、身終つるまで忘失することなかれ。
    • ここが学問の始まりで、死ぬまで忘れてはいけません。

実語教本文と現代語訳

山高きが故に貴からず。木有るを以て貴しとす。
人肥えたるが故に貴からず。智有るを以て貴しとす。
富は是一生の財。身滅すれば即ち共に滅す。
智は是万代の財。命終われば即ち随って行く。
玉磨かざれば光無し。光無きを石瓦とす。
人学ばざれば智無し。智無きを愚人とす。
倉の内の財は朽つること有り。身の内の財は朽ちること無し。
千両の金を積むと雖も。一日の学に如かず。
兄弟常に合わず。慈悲を兄弟とす。
財物永く存せず。才智を財物とす。
四大日々に衰え、心神夜々に暗し。
幼き時勤学せざれば、老て後恨み悔ゆと雖も、
なお取益有ること無し。故に書を読んで倦むことなかれ。
学文怠る時なかれ。眠りを除きて通夜に涌せよ。
飢えを忍びて終日習え。師に會うと雖も学せざれば
徒に市人に向かうが如し。習い読むと雖も復せざれば
只隣の財を数えるが如し。君子は智者を愛す。
小人は福人を愛す。富貴の家に入ると雖も、
財無き人の為は、なお霜の下の花の如し。
貧賤の門を出ずると雖も、智有る人の為には、
あたかも泥中の蓮の如し。父母は天地の如し。 
師君は日月の如し。親族譬ば葦の如し。
夫妻は猶瓦の如く。父母には朝夕に孝せよ。
師君には昼夜に仕えよ。友に交わって諍う事なかれ。
己より兄には礼敬を尽くせ。己より弟には愛戯を致せ。
人として智無きは、木石に異ならず。
人として孝無きは、畜生に異ならず。
三学の友に交わらずんば、何ぞ七覚の林に遊ばん。
四等の船に乗らずんば、誰か八苦の海を渡さん。
八正の道は廣しと雖も、十悪の人は往かず。
無為の都に楽しむと雖も、報逸の輩は遊ばず。 
老いたるを敬うは父母の如し、幼きを愛するは子弟の如し。
我他人を敬へば、他人亦我を敬う。
己人の親を敬えば、人亦己が親を敬う。
己が身をば達っせんと欲せば、先ず他人の身を達っせしめよ。
他人の愁いを見ては、即ち自ら共に患うべし。
他人のよろこびを聞いては、即ち自ら共に悦ぶべし。
善を見ては速やかに行け、悪を見ては忽ち避れ。
悪を好む者は禍を招く。譬ば響きの音に応ずるが如し。
善を修する者は福を蒙る。あたかも身に影の随うが如し。
富むと雖も貧しきを忘るることなかれ。或いは始めに富み終わりに貧しいとも。
貴しと雖も賎しきを忘るることなかれ。或いは先に貴く終わりに賎しくとも。
それ習い難く忘れ易しは、音声の浮才。
また学び易く忘れ難しは、書筆の博藝。
但し食有れば法有り、また身あれば命有り。
なお農業を忘れざれば、必ず学文廃することなかれ。
故に末代の学者、先ず此の書を按ずべし。
是学文の始まり、身終つるまで忘失することなかれ。

実語教 現代語訳

以下、実語教本文と現代語訳


  • 山高故不貴 以有樹為貴
     山高きが故に貴からず。木有るを以て貴しとす。
  • 人肥故不貴 以有智為貴
     人肥えたるが故に貴からず。智有るを以て貴しとす。
  • 富是一生財 身滅即共滅
     富は是一生の財。身滅すれば即ち共に滅す。
  • 智是万代財 命終即随行
     智は是万代の財。命終われば即ち随って行く。
  • 玉不磨無光 無光為石瓦
     玉磨かざれば光無し。光無きを石瓦とす。
  • 人不学無智 無智為愚人
     人学ばざれば智無し。智無きを愚人とす。
  • 倉内財有朽 身内財無朽
     倉の内の財は朽つること有り。身の内の財は朽ちること無し。
  • 雖積千両金 不如一日学
     千両の金を積むと雖も。一日の学に如かず。
  • 兄弟常不合 慈悲為兄弟
     兄弟常に合わず。慈悲を兄弟とす。
  • 財物永不存 才智為財物
     財物永く存せず。才智を財物とす。
  • 四大日々衰 心神夜々暗
     四大日々に衰え、心神夜々に暗し。
  • 幼時不勤学 老後雖恨悔
     幼き時に勤め学ばざれば、老いて後恨み悔ゆと雖も、
  • 尚無有取益 故讀書勿倦
     なお取益有るを無し。故に書を読んで倦むことなかれ。
  • 学文勿怠時 除眠通夜涌
     学文怠る時なかれ。眠りを除きて通夜に涌せよ。
  • 忍飢終日習 雖會師不学
     飢えを忍びて終日習え。師に會うと雖も学せざれば
  • 徒如向市人 雖習讀不復
     徒に市人に向かうが如し。習い読むと雖も復せざれば
  • 只如計隣財 君子愛智者
     只隣の財を数えるが如し。君子は智者を愛す。
  • 小人愛福人 雖入富貴家
     小人は福人を愛す。富貴の家に入ると雖も、
  • 為無財人者 猶如霜下花
     財無き人の為は、なお霜の下の花の如し。
  • 雖出貧賤門 為有智人者
     貧賤の門を出ずると雖も、智有る人の為には、
  • 宛如泥中蓮 父母如天地
     あたかも泥中の蓮の如し。父母は天地の如し。 
  • 師君如日月 親族譬如葦
     師君は日月の如し。親族譬ば葦の如し。
  • 夫妻猶如瓦 父母孝朝夕
     夫妻は猶瓦の如く。父母には朝夕に孝せよ。
  • 師君仕昼夜 交友勿諍事
     師君には昼夜に仕えよ。友に交わって諍う事なかれ。
  • 己兄尽禮敬 己弟致愛戯
     己より兄には礼敬を尽くせ。己より弟には愛戯を致せ。
  • 人而無智者 不異称木石
     人として智無きは、木石に異ならず。
  • 人而無孝者 不異称畜生
     人として孝無きは、畜生に異ならず。
  • 不交三学友 何遊七覚林
     三学の友に交わらずんば、何ぞ七覚の林に遊ばん。
  • 不乗四等船 誰渡八苦海
     四等の船に乗らずんば、誰か八苦の海を渡さん。
  • 八正道雖廣 十悪人不往
     八正の道は廣しと雖も、十悪の人は往かず。
  • 無為都雖楽 報逸輩不遊
     無為の都に楽しむと雖も、報逸の輩は遊ばず。 
  • 敬老如父母 愛幼如子弟
     老いたるを敬うは父母の如し、幼きを愛するは子弟の如し。
  • 我敬他人者 他人亦敬我
     我他人を敬へば、他人亦我を敬う。
  • 己敬人親者 人亦敬己親
     己人の親を敬えば、人亦己が親を敬う。
  • 欲達己身者 先令達他人
     己が身をば達っせんと欲せば、先ず他人の身を達っせしめよ。
  • 見他人之愁 即自共可患
     他人の愁いを見ては、即ち自ら共に患うべし。
  • 聞他人之嘉 即自共可悦
     他人のよろこびを聞いては、即ち自ら共に悦ぶべし。
  • 見善者速行 見悪者忽避
     善を見ては速やかに行け、悪を見ては忽ち避れ。
  • 好悪者招禍 譬如響応音
     悪を好む者は禍を招く。譬ば響きの音に応ずるが如し。
  • 修善者蒙福 宛如随身影
     善を修する者は福を蒙る。あたかも身に影の随うが如し。
  • 雖富勿忘貧 或始富終貧
     富むと雖も貧しきを忘るることなかれ。或いは始めに富み終わりに貧しいとも。
  • 雖貴勿忘賎 或先貴後賎
     貴しと雖も賎しきを忘るることなかれ。或いは先に貴く終わりに賎しくとも。
  • 夫難習易忘 音聲之浮才
     それ習い難く忘れ易しは、音声の浮才。
  • 又易学難忘 書筆之博藝
     また学び易く忘れ難しは、書筆の博藝。
  • 但有食有法 又有身有命
     但し食有れば法有り、また身あれば命有り。
  • 猶不忘農業 必莫廢学文
     なお農業を忘れざれば、必ず学文廃することなかれ。
  • 故末代学者 先可按此書
     故に末代の学者、先ず此の書を按ずべし。
  • 是学文之始 身終勿忘失
     是学文の始まり、身終つるまで忘失することなかれ。

備考

作者は弘法大師とされていますが確証はありません。

アドセンス

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