メアリーの部屋(スーパー科学者メアリー/一人ぼっちのメアリー)とは
概要
メアリーの部屋(スーパー科学者メアリー/一人ぼっちのメアリー)は「色を知らない科学者が初めて色を目にする事でなにを得るのか?」という思考実験です。
基本的にはクオリア に対する思考実験になっているため、知識と経験を切り離して行う実験となります。
推察として「色についての知識が全てある状態」であれば色を目にして学ぶ事はないはずです。
しかし、「色に関しての知識が全てある状態にもかかわらず初めて色を目にするという体験をする事で知識や経験などに対しての影響を与えて学ぶことがあるならば、それは物理主義に反していると考える事ができる」という哲学的思考実験です。
この思考実験は実際に行う事は倫理的問題のみではなく「メアリーは色に関する物理学的な知識を全て身に着けている」という前提条件を満たす事ができないため、前提条件を満たすことが不可能に近いため実験を様々な観点から分析・検討するにとどまっています。
思考実験の内容
この実験のポイントは「色についての物理的知識はあるが一度も色を見たことがない」メアリーはどのような反応をするのかです。
そのため、前提条件として「色を経験した事がない」という条件は外せません。
実験内容の前提としては
- メアリーは聡明な科学者で専門は視覚に関する神経生理学です。
- 彼女は生まれてから白黒のものしか目にしたことがなく、部屋もすべて白黒です。
- 彼女は白黒の部屋からテレビ画面を通してのみ世界を調査することができます。
- 彼女は物理的過程に関して得られるすべての物理情報を知っています。
例えば「赤」や「青」などの言葉の意味も理解していますし、光の見え方の違いも理解しています。
この状態から「彼女が白黒の部屋から解放されたり、テレビがカラーになったとき、彼女は何かを学ぶのでしょうか?」というのが思考実験の内容です。
メアリーが色彩豊富な世界を見て何かを学ぶとするならば物理情報だけではなく、クオリアが存在するという認識が裏付けられます。
メアリーが学ぶ内容について
メアリーが学ぶ内容は様々なですが、例えば分離脳(本来ならば左右の脳は脳梁によって繋がっていますが、なんらかの原因で繋がっていない状態の脳)の記録なども重要になると思います。
具体的には
人間の視神経は左右の両目とも
- 目の左半分の視界は左脳につながっています。
- 目の右半分の視界は右脳につながっています。
つまり、
- 右目の右側は右脳と繋がり、左側は左脳と繋がっています。
- 左目の左側は左脳と繋がり、右側は右脳と繋がっています。
そのため、左右の脳の連絡網である脳梁が切断された状態になると
- 右目の右側は右脳と繋がっている。
- 左目の左側は左脳と繋がっている。
このように、一方の脳が得た情報はもう片方の脳に送ることができなくなってしまいます。
ここから実験の内容ですが
- 被験者には右目でのみ「コップ」という文字を見えるようにします。
- 被験者に両目を閉じてもらいます。
- 被験者に「見えたものを取ってください」と言います。
- 被験者は左手でコップのようなものを手にする事ができます。
- 被験者に「なにを取ればいいかわかっていますか?」と問います。
- 被験者は「何も見えなかったので何を取ればいいのかわかりません」と言います。
コップを掴んでいるにも関わらず「何を取ればいいのかわからない」と言うのは左右の脳が独立しているから起こってしまいます。
- 左手を動かすのは右脳の役割です。
- 言語情報を処理するのは左脳の役割です。
このように役割が異なっているのに情報がシェアされていないため言動がちぐはぐになってしまいます。
他にも可視光線の波長なども重要です。
人間の目に光として感じる波長範囲は下限が360~400nmで上限は760~830nmだと考えられています。
※可視光線の波長はnm(ナノメートル)単位で表されることが多いです。
波長によって異なる色感覚を受けるため基本的には
- 紫は380~430nm
- 青は430~490nm
- 緑は490~550nm
- 黄は550~590nm
- 橙は590~640nm
- 赤は640~770nm
として認識されると考えられています。
私たちは被験者ではないため実際の色を見て知識を裏付けとして記憶していく事ができますが、知識を学ぶ事で全ての色を把握する事ができるのかはとても難しい課題です。
また、実際に色が知識のみで全て把握する事ができるとする場合、私たち人間が認識できない可視光線の他の色も理解する事ができるようになると思います。
まとめ
この思考実験ではメアリーがとても優秀ですべての色に関する知識を身に着ける前提ですが、実際に視覚に関する全ての知識を持つ事は不可能と言っても過言ではないと思います。
過去に全色盲の視覚科学者が存在しましたがその科学者は色の持つ性質を理解する事はできなかったと語っていました。
また、後天的に色盲となった画家は自分の記憶に残る色は鮮明に記憶しているにも関わらず、新しい絵を目にしてもその色を感じる事ができませんでした。
このように、知識を詰め込んだり体感したとしても、実際に視覚情報として脳で処理して目にした色を認識できなければ色を認識できない可能性があるとされています。
先ほどの後天的に色盲になってしまった人は脳の中では色に関する知識が残っているのかもしれませんが、それが脳内で視覚情報とうまく連携できていない可能性があります。
※記憶が欠落してしまった可能性も否定できません。
このように広義のクオリアについて考察するためには様々な要素が複合的に絡まっていくため研究はとても難易度が高いです。
備考
メアリーの部屋は、スーパー科学者メアリー、一人ぼっちのメアリーなど、さまざまな呼び方で呼ばれています。