概要
生存者バイアスは「特定の条件を満たした枠の中」で発生する偏りです。
語源の通り「生き残ったもの」という枠の中を分析する事で「統計から漏れてしまう要因」が発生するためバイアスがかかり正しい分析が行えなくなってしまいます。
例えば「死んだらわかる」と言われても死んだ人が本当に理解できたか確認する事はできませんし「死んでもわからなかった」と言うクレームを受ける事もありません。
このように「生きている人の情報」だけでは偏った見識しか得られないため本質が見えなくなってしまう事があります。
特に「なにかしらの選択をした結果生き残ってきたもの」はその過程で「大きな失敗しなかったもの」であるため生き残ったものから情報を収集しても根幹を揺るがすような大きな失敗はありません。
より具体的な表現をするならば生存者バイアスがかかった情報には「本当にしてはいけない事」は含まれていません。
生存者バイアスの具体例(実際の事故現場での状況)
事故A・Bがあり、その事故の被害者(生存者のみ)から事故の危険性についての認識を確認します。
事故A
100人中10人が死亡、60人が重症、30人が軽傷とします。
生き残った人の意見
- 60人の重傷者が「危険だった」と回答
- 30人の軽症者が「それほど危険ではなかった」と回答
つまり、半数以上が危険だったという認識があります。
事故B
100人中50人が死亡、20人が重症、30人が軽傷とします。
生き残った人の意見
- 20人の人が「危険だった」と回答
- 30人の人が「それほど危険ではなかった」と回答
つまり、半数以上が危険ではなかったという認識があります。
事故A・Bの分析結果
事故についての認識を生き残った人に確認すると「事故B(死者が多い方)の方が危険ではなかった」と認識をする人の割合が多くなってしまいます。
これは事故Aの重傷者の人数が多い事が要因です。
そして「とても危険だった」と感じているはずの死者の意見は含まれていません。
そのため「実際の事故の危険度」と「体感的な事故の危険度」で認識が異なった結果となってしまいます。
また、このような事故の原因を究明する際には基本的に「生き残った人は事故現場からある程度離れていた事で生き残れた」という背景から生存者の供述は不明瞭な点が多くなってしまう傾向があります。
生存者バイアスの具体例(ビジネスシーンでの状況)
近年は日本政府が主導になって「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズと共に資産運用を積極的に打ち出しています。
そのため投資に興味を持つ人も増加傾向で「NISA(ニーサ)」や「iDeCo(イデコ)」と言われる投信の税制優遇措置もあるためテレビや雑誌などでも「資産〇億円!の△さん」のように成功者が取り上げられていますが、このような成功体験を語る人の陰には借金をして自殺をしてしまったような人もたくさんいます。
近年はインターネットが普及した影響から投資関連の情報が集まるSNSでは「大きな値動きがあると電車が止まる(人身事故が発生する)」と噂されるほどです。
しかし、メディアは死んだ人から取材する事はできないため「大きな損失を作ってしまった原因」について報道される事はとても珍しいです。
このようなお金に関連する失敗は個人だけではなく会社でも同じです。
業績の調査をする際には倒産した企業の情報は次々と排除されていくため「生き残っている企業」の情報のみを集める事になります。
そのため赤字の金額は実際の金額よりも少なく見積もられます。
このように「漏れている情報」も考慮しないと「正しい分析」を行えないシーンはたくさんあるため注意が必要です。
まとめ
「組織」「個人」「物」など、多くのケースでは適者生存(最適者生存)が繰り返されているため生存者バイアスが発生していないかを冷静に見極めなくて正しい分析は行えません。
例えば
成功した人の知識や経験に着目する場合の多くはポジショントークである事が多いですし、同様の事象を起こそうとしても再現性に欠けている事も多いですし、実際に同じ過程を辿っても途中で失敗して退くことになるケースは多いです。
特に「学歴は関係ない」という人の最終学歴は大卒であったり、「努力が足りない」という人の家庭は恵まれていて「経済的に困窮した経験がない」というケースはとても多いです。
このような人達の多くは悪意から言っているのではなく「経験した事がない状況」に対しての認識を正確に分析できていない事が大きな要因となり偏った認識をもっている事が多いです。
他にも「成功した立場の人の失敗談は軽傷」な内容となっていますがその一方で「大きな失敗をして重傷を負って去った人」意見は無視されています。
そのため、分析を行う際には「データの収集方法」のような根本的な要因を把握する事も大切です。
実際に言う人がいるかはわかりませんが「死ぬ気でやればできる」という言葉には過労死するような内容は含まれていません。
そして、このような事を言うパワハラ上司に対しては「過労死する事で初めてできなかった証明」となるため「死ぬ気でやればできる」という言葉に対してパワハラの犠牲者がその証拠と共に抗議する事はできません。
これと同様に「神は乗り越えられる試練しか与えない」というのも「乗り越えられずに去った者」はそのような発言はできない(信じられずに去る者や信じ込んで死んでしまう人に分かれます)事が多いため生存者バイアスが適用されている可能性があるので注意が必要です。