アヴェロンの野生児(ヴィクトール)は自然界で育った少年です。
基本的に野生児の多くは言語などの文明社会で必須である教育を受けることなく成長しています。
アヴァロンの野生児と呼ばれる少年(ヴィクトール)も例外ではなく、1797年頃に南フランスで保護(捕獲)された時は11~12歳前後だと考えられていますが人間らしい教育を受けることなく育っている野生児(野生人)の状態でした。
当初は数か月もすれば人間らしい生活を送れるような教育を終えて社会生活にもすぐに順応すると考えられていましたが、長い間野生生活を送っていた少年(ヴィクトール)の感覚機能は社会に溶け込んだ人間とは異なっているようでした。
具体的には
- 音楽には興味を示さないものの、クルミを割るような音には敏感に反応をしていました。
※生存するためには食料を得る事は重要だったためだと考えられています。 - 物のにおいを嗅ぐ癖はあるものの、嗅覚が発達していないと認識されていました。
- 声は出せても言語は話せませんでした。
また、IQ(アイキュー)に関する成績が良くなかったため論理的思考(ロジカルシンキング)能力が未発達であるという判断が下されました。
※思考力や記憶力などは先天的・後天的要因のどちらに起因するものであるかを判断する事が難しいです。
少年(ヴィクトール)への教育
野生で育った少年をそのまま社会に戻すわけにはいかない(言語能力がないため意思疎通も困難な状態の上、触れようとする人に嚙みついたり引搔いたりしていました)ため、人間らしい生活を送るための教育を行いました。
教育を初めて3か月もすると、捕獲当時はほとんど機能していなかった感覚器官が回復(特に、触覚・味覚・嗅覚の3つについては改善がみられましたが、視覚と聴覚についての改善はみられませんでした)してきました。
また、言語能力はアルファベットを順番に並べる事が出来ような状態まで改善がみられました。
その後も教育を続ける事で、次第にアルファベットへの認知が進み、簡単な文章は理解できるようになりました。
5年間の教育の成果として、感覚機能の回復については完全に回復する事はありませんでしたし、言語能力についても十分なレベルに達する事はできませんでした。
そのため、少年(ヴィクトール)の能力については先天的な要因によって社会生活に必要な能力の習得が不可能であるという判断が下されてしまい、教育は終わってしまいました。
そのため、その後は世話役とひっそりと暮らして1828年に推定40歳で亡くなりました。
※死因は明かされていません。
※ヴィクトールは文法や構文を完全に理解する事は生涯できなかったようです。
まとめ
ヴィクトールについての見識には様々な意見があります。
しかし、少年が社会復帰できなかったのは「先天的な要因によるもの」であるという考えがある反面「先天的に能力が劣っていたら自然界で10年以上も生存できない」という意見もあります。
そのため、人の成長には遺伝的な要因のみではなく、環境的な要因が大きな影響を与えているという推察があります。
そして、その影響は臨界期仮説との関連性が考えられ、アヴァロンの野生児(ヴィクトール)は臨界期を過ぎた状態で教育を受けたため、社会生活に適応する能力を身に着ける事が完全にはできなかったと考えられています。
臨界期仮説
人間は未完成(近類の哺乳類と比べ、人は未熟)な状態で生まれます。
例えば、
馬などの子供は誕生して数時間で走る事ができるようになります。
これは人が文明社会に適応するためには、環境への適応能力が高くなければいけないためだと考えられています。
そのためには、様々な進化の可能性を残した成長途中の状態で生まれる必要があったと考えられます。
つまり、人は他の生物よりも伸びしろが多い状態で誕生し、社会生活に適応するために急成長します。
その反面、誕生した後に社会的な生活を送れずにある程度の年齢(12歳前後だと考えられています)まで育ってしまうと、異なる環境への適切な能力の成長を求められても、既に環境に適応するための方向性が定まってしまった状態では、新たな能力を身に着ける難易度が非常に高くなってしまいます。
備考
1797年に南フランスで確保され、アヴァロンで保護されていたため、アヴァロンの野生児といわれています。